episode 25

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ファミレスにて

何度も行ったというほどではないけれど、ファミリーレストランというのはおれの好みの場所のひとつだ。夕食どきの忙しい時間をすぎてもまだ様々な客に雑然としていて、騒がしいけれどうるさいというほどではなく、席と席の間の仕切りの背が低いせいか、開放された雰囲気がある。広いガラス窓のむこうを流れる車のヘッドライトをぼんやりと目で追っていると、とがめるような声に邪魔をされた。目の前にいる後輩はもう四五杯目にもなるビールを飲みほしていた。

「先輩、(リア充っていうやつらは)他人の存在なんて信じてないんですよ。聞いたことはあるけど自分の周りにはいないって、思ってるんだ~」

別に飲みに来たわけでもないし安くもない酒をそんなに飲んでどうしようというのだ。おれはリア充という言葉をそういう風に使うのが好きではないこともあって、つっかかる。

「信じてないって、他人を伝説の存在だって思っているっていうことか? 一角獣≪ユニコーン≫のように? 処女の前にしか姿を現さないような存在だと?」

後輩は伝説、それはいいっすね、と行って喜んだ。

リア充が一般人に似ているのはなぜ?...

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夜半すぎ[アイドルマスター二次創作]

 雪歩の身じろぎで、夜中に目が覚めた。ぼんやりと目を開いてみても視界は一様に暗く、カーテンの向こう側にもうっすらとした街の明かりをのぞいては光の気配が感じられないので、夜明けはまだ遠く、真夜中といっていい時間なのだろうとボクは思う。当の雪歩は隣で聞こえるか聞こえないかのかすかな寝息を立て、見つめるボクの視線にも気づかないまま眠っている。

 雪歩を起こさないようにそっと片手を動かして、その髪をなでる。その肩の、露わになった肌にやさしく触れる。何ひとつ損なわれるところのない滑らかでさらさらとした雪歩の肌に、ボクの指や手のひらが、おずおずと重なる。そうして、彼女の腕、脇腹、腰のかたちを見ることなく知れる。無数の細胞どうしで触れあうその感触にぞくぞくとした悦びをおぼえているのが自分でわかる。どうして彼女はこんなにも柔らかいのだろうか。けれどボクは今すぐにでも雪歩を抱き締めたくなる気持ちを我慢する。

 ボクと雪歩が「こういう」関係になってからもう一年近くが経つ。互いに距離を測りながらの関係も一線を越えてしまえば気安いもので、以来ボクたちは体を重ねてばかりいるが、忙しい仕事の合間に互いをできるだけ感じる方法はこれ以外に考えられなかったし、普通の女の子としての生活なんてもともと自分たちにはなかったのだ。

 薄明かりに透き通るような雪歩の肌の下には彼女の筋肉と、骨と、内臓とがいまも生きて、彼女を形づくっている。ボクは、そのどこに雪歩の心は在るのだろうかと考える。彼女を知らない人には一見気弱なように見えるけれど、本当は力強く、活き活きとした彼女のその心は。

 最近、雪歩は変わったねと皆は言う。おどおどした様子がなくなった気がする。男の人を前にしても落ち着いている、笑っているところすら見かけるようになった。真くんと一緒にいるあいだに変わったみたいだ、等々。はじめて事務所で顔合わせをした頃にはあんなに自信がなさそうで、人前に立つことさえ恐れ、仕事のたびにボクの背中に隠れていた雪歩が今では、ごくごく普通に他人と談笑している姿をみせている。それは周囲の人びとにとっては十分に驚くべき事態だ...

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